adidasやPUMAのファクトリーだったとか、西ドイツ軍の訓練用シューズを作っていたなど逸話が多いスロバキアのスニーカー工場。
スロバキア製スニーカーってやつは、キャンバススニーカーのなかでも面白い位置にいて。「他人とかぶるのがイヤ!」という人におすすめだとも言えます。
というわけで、今回はスロバキア製スニーカーブランドをチェックしましょう!
- スロバキア製スニーカーのメリット・特徴と代表ブランド
- BATA(バタ)
- バタ社工場の国有化
- 国営企業の消滅
- スロバキアの閉鎖工場を復活させたブランド
- スロバキア製ミリタリートレーニングシューズ
- まとめ
スロバキア製スニーカーのメリット・特徴と代表ブランド
例えば、キャンバスアッパーのローテクスニーカーといえば、コンバースオールスターあたりが思い浮かぶ人が多いのでは?でも、猫も杓子も感があるのはいなめない。
その点、スロバキア製スニーカーはまだまだ「なにそのブランド!?」な存在なわけです。
そして、うまく探せばお値打ち価格なものも見つかります!
ただ、デメリットを挙げるなら仕上がりが甘く見えたり、ばらつきがあったりするところでしょうかね。それを愛しいと思うか、イラっとするかは人それぞれだと思います。
さてさて、キャンバスアッパーのスロバキア製スニーカーといえば昔懐かしいクラシックなスタイルが特徴。
ハイカット。くるぶしにゴム製のアンクルパッチがついているものもあります。ちょっとしたアクセントですね。
ローカット。とってもシンプル。
ところで、「スロバキアのファクトリーで製造された…うんぬんかんぬん」などと紹介されるスニーカーは、次の特徴を備えていることが多いのです!
バルカナイズド製法
ひとつひとつ職人による手作り(←バルカナイズド製法ゆえ)
天然ゴムのソール
デザインはクラシックなコートスニーカータイプ(マラソンタイプもあり)
NIKEやadidasなどの巨大ブランドが、スニーカーの素材や機能をガンガン進化させていく一方、スロバキア工場ではバルカナイズド製法による昔ながらのスニーカーを生産しています。
ブランドとしては、ノヴェスタやバルカン、CEBO、インスタントなどがそのカテゴリーに入るかと。あとはチェコ軍や旧西ドイツ軍のトレーニングシューズなども広い意味で該当するでしょう。
それでは、スロバキア製スニーカーブランドを紹介していきます!!
BATA(バタ)
画像出典:Ladies' tennis shoes | Bata
1936年に誕生したBata Tennis。ゴム底・キャンバスアッパーのクラシックなコートスニーカーです(ただし、わけあってバタ社のスニーカーはスロバキア製というわけではありません)。
スロバキア製スニーカーを語るならバタ社をハズすことはできないのだ!バタ社はスロバキア製スニーカーの父のような存在なのだから。
チェコ・モラヴィア地方のズリーンで、1894年にトーマス・バタらがT&Aバタ・シューズ社を立ち上げたのがバタ社の始まり。
バタ社は創業以来、快進撃を続け、本社のあったチェコ・ズリーン以外にも次々と工場を作っていきます。
そのうちのひとつが、スロバキア西部にあるSimonovany村。湿地だらけだった村に靴工場を作り、Bataville(バタ社主導の都市計画により整備された町)のひとつとして発展。のちにそこはパルチザンスケと呼ばれることとなります。
スロバキアのパルチザンスケ。頭のすみにいれておいてくださいね~。
バタ社工場の国有化
第二次世界大戦後、チェコとスロバキアはチェコスロバキア社会主義共和国となります。それにともない、バタ社の工場は国有化されCEBOやZDA、Svit、JASなどに名前を変えます(ちなみに、この頃のチェコスロバキアはソ連が健在なので「東欧」扱い)。
チェコスロバキアは当時、東ヨーロッパ最大の靴の製造国!旧バタ社のスロバキア工場では、ソ連に靴を輸出するとともに、adidasやPUMAなど名だたるブランドのスニーカー生産も請け負っていました。
ZDA(ゼットディーエー)/ZDA Partizánske
1948年、ZDAは国営の靴製造会社としてパルチザンスケにて誕生。最大の取引先はソ連でした。
社会主義政権崩壊後の1995年にCEBO HOLDING SLOVAKIAに買収され民営化しますが、経営はうまくいかなかったようで。その後、バルカンなど3社の株式会社に分割されます。
2002年には新生ZDAとでも言うべきZDA Partizánske 株式会社が設立されていて、日本ではEYE FOUND株式会社が取り扱っています。
ちなみに!ZDAは「ZAVODY 29. AUGUSTA(工場、8月29日)」の略称のようです。
Z→zavody:工場・製作所zavodの複数形(チェコ語)
D→Dvadsať deväť :29日(スロバキア語)
A→ Augusta:8月(スロバキア語)
出典:Závody 29. augusta | ZDA Partizánske ↑ZDAのロゴ
ZDAにとって8月29日は大切な日のようです。
「スロバキア民衆蜂起」が起こった日(1944年8月29日)
旧バタ社の工場がZDAに改名された日(1948年8月29日)
スロバキア民衆蜂起とは、第二次世界大戦中にナチス・ドイツに対抗するためにスロバキア軍や民衆が起こした軍事闘争のことです。
第二次世界大戦前、ナチス・ドイツはヨーロッパで周辺国を次々と占領。チェコスロバキアも占領された国のひとつだったのです。
国営企業の消滅
チェコスロバキア社会主義国が崩壊してから、チェコスロバキアはチェコ共和国とスロバキア共和国に分離独立します(ソ連も崩壊したので、チェコもスロバキアも現在は「中欧」扱い)。
パルチザンスケではNOVESTAやVULKANがスタートします。
NOVESTA(ノヴェスタ)
1992年にスタートしたノヴェスタはオリジナルのノヴェスタブランド以外にも、AIGLE(エーグル)、BENSIMON(ベンシモン)などの製造を請け負っていました。
ちなみに、ノヴェスタは2010年にバルカン社に買収され、現在はバルカン社のいちブランドとなっています。
VULKAN(バルカン)
バルカンはCEBO HOLDING SLOVAKIAが所有していた旧ZDAから、1996年にゴム・靴生産部門としてスタートします(CEBO HOLDING SLOVAKIAは1997年に解散)。
ノヴェスタ同様OEMも行っていて、バルカン工場で作った3,000円そこそこのスニーカーが有名ブランドからさらなる高値で販売されるそうで。
いつかスロバキアでバルカンオリジナルモデルを工場から直買いしてみたいものですね……。
INN-STANT(インスタント)
こちらはインスタントの"CANVAS SHOES”。インスタントは大阪府吹田市の三浦企画のオリジナルブランドです。
三浦企画がデザインし、製造はスロバキアの工場で行っているとのことで、おそらくバルカン社のOEM製品の一種なのはないかと思われます。
スロバキアの閉鎖工場を復活させたブランド
社会主義政権崩壊の後に民営化したバルカンやノヴェスタが、一部のスロバキア工場を引き継ぐことができました。でも、すべての工場が生き残れたわけではありませんでした。
日の目を見ることができなくなった機械や靴型、原材料などが放置され、閉鎖を待つ工場も多くあったようです。
次の2つは、閉鎖間近もしくはすでに閉鎖されたスロバキア工場を復活させたブランドです!
【廃版】タナカユニバーサルによる新CEBO(セボ)
ブランドとしてのセボは、タナカユニバーサルの田中清司氏が1998年に復活させましたが、現在廃版になっています。
CEBO はCZECH SLOVAKIA(チェコスロバキア)とBOTA(チェコ語で靴の単数形?)の略。すなわち「チェコスロバキアの靴」の意味です。
大阪のタナカユニバーサルは、マカロニアンやジャーマントレーナーを擁するシューズ製造卸会社。閉鎖される予定だったスロバキア工場に残っていた機械や靴型、原材料などを田中氏が買い取ることにより、CEBOブランドを受け継いでいます。
SPALWART(スパルウォート)
スパルウォートはスエーデン・ストックホルムのBrattin Design AB社が擁するシューズブランド。2010年にスタートしました。
閉鎖されたスロバキア工場に眠っていた機械や金型を使用し、彼らの解釈でスロバキア製スニーカーを復活させています。
スロバキア製ミリタリートレーニングシューズ
スロバキア工場は自国軍はもちろん、ヨーロッパ地域の軍用トレーニングシューズも製造していました。
チェコ軍のトレーニングシューズ
次に紹介するDRAFT社、Kontrakt社のスニーカーはチェコ共和国軍のトレーニングシューズで、こちらもスロバキア製です。チェコ軍の隊員のトレーニング時などに使用しています。
こちらはDRAFT社製。DRAFT社製のスニーカーには"DRAFT inc. by VULKAN”とバルカン社が請負製造した旨を記載しているものもあるようです。
こちらはKontrakt社のもの。ソールの裏には吸盤のような円とTrampky Guyマーク。
出典:OUTLET for GREEN
Trampky Guyは「ハイキングをする人」を指します。"Trampky ”とは英語のtramp(動詞:てくてく歩く)とスロバキア語のtenisky(名詞:スニーカー)を組み合わせた造語ではないかなあ~と勝手に想像。
出典:NOVESTA JAPAN OFFICIAL STORE – NOVESTA JAPAN STORE
Trampky Guyすなわち、てくてく男はノヴェスタのSTAR MASTERとSTAR DRIBBLEのソール裏でもてくてくしてます。
スロバキアは国土のほとんどが山岳地帯。スロバキア人にとってハイキングはド定番の趣味で、Trampky Guyには山岳地帯にも対応できる丈夫な靴!という意図もこめられているようです。
german trainer(ジャーマントレーナー)byタナカユニバーサル
こちらはタナカユニバーサルのジャーマントレーナー#1183。
西ドイツ軍の訓練用スニーカーだったジャーマントレーナーは1994年に支給が終了したため、工場は閉鎖される運命にありました。タナカユニバーサルはCEBOとともにジャーマントレーナーの機械や金型なども確保しブランドとして受け継いでいるのです。
GATことジャーマントレーナーは1970年~80年代当時、PUMAとadidasがスロバキア工場にて生産していました。
一般的に、GATはadidasがデザインしたとされていますが、PUMAも自社のデザインであると主張しているようです。
REPRODUCTION OF FOUND (リプロダクション オブ ファウンド)
リプロダクションオブファウンドは、東京のEYE FOUND株式会社が2016年に立ち上げました。
各国の軍用シューズを、現地の工場で次々と復刻するイカしたブランドなのだ!
- スロバキア工場:フランス軍・カナダ軍・スウェーデン軍など
- ルーマニア工場:イタリア軍・アメリカ海軍など
- イタリア工場:ロシア軍
- チェコ工場:チェコスロバキア軍
こちらはリプロダクションオブファウンドのジャーマントレーナー。スロバキア製です。
およ?と思った方、いるかもしれません。ジャーマントレーナーはタナカユニバーサルのブランドなのではないか?もしやパクリ?
……ではなくて。
ジャーマントレーナーなど軍用シューズはあくまで軍用目的のものであり、商品としての販売を考えていないわけです。
だから、意匠登録や商標登録もされておらず、そのデザインはパブリックドメイン的な扱いになっているようです(例外はあり)。
よって、ジャーマントレーナーは数々のブランドからリリースされています。
MARTIN MARGIELA(マルタン・マルジェラ)
LOUIS VUITTON(ルイヴィトン)
Dior Homme(ディオールオム)
SVENSSON (スヴェンソン)
F/CE.(旧FICOUTUREフィクチュール)などなど……
そして、タナカユニバーサルがブランドを引き継いだときにも、特に意匠権や商標権を主張することはしなかったようです。太っ腹ですね~。
まとめ
スロバキアスニーカーの父、バタ社が誕生して現在まで120年あまり。その間、チェコやスロバキアという地域、もしくは国は次々とそのかたちを変えています。
- オーストリア=ハンガリー帝国の支配下
- チェコスロバキア共和国
- ナチスドイツによる占領
- チェコスロバキア社会主義共和国
- チェコ共和国・スロバキア共和国(←イマココ)
スロバキア製スニーカーが今でもバルカナイズド製法を採用するのは次のような理由からかもしれません。
支配者や国の体制がコロコロ変わるので安定した生産体制を整えにくい
社会主義のイデオロギーのもとでは資本主義下の企業のように新しいテクノロジーを取り入れるモチベーションが低くなる
超巨大納入先のソ連がスニーカーを買い続けてくれた
結果、幸か不幸か、昔のままのバルカナイズド製法が受け継がれ、逆に今新しい!ってことになってるのではないかと思います。
古くて新しいスロバキア製スニーカー!「他人と同じスニーカーじゃつまんない!」なら選択肢にいれてみては!?